シュワちゃんが復帰した作品

何事も時間とともに過ぎればその分だけ老いるというもの。人も例外ではない、10代だったかと思えばあっという間に20代を過ぎて30代に突入し、めくるめく新しい人生という開きたくもない老後という瞬間もそう遠くないと錯覚するほどだ。深々と考えると空恐ろしい物を感じますが、年を超えても変わらない物はある。名作は名作のまま輝き、出演していた役者はそのプライオリティを響かせ続けていく。普遍的であればあるほど人は憧憬を持ってして、崇拝という高みに登りつめらせる。無論だが本人の意志と関係なくだ。

俳優として活躍し、更に脂が乗って今後も第一線で活躍していくと思われていた中で突如として政治家という肩書、それもアメリカの州知事という役職を手に入れた『アーノルド・シュワルツェネッガー』さんの存在は大きい。日本でも絶大な人気を誇り、数々の映画に出演しては話題を振りまいていた彼が政治の世界にて活躍し始めると、本業が役者業から政治へとシフトして残念だと感じた人も多かったはずだ。それでも以前から映画に出演はしても、彼自身が主演を飾る作品はなかったが2011年に知事を任期満了で退任した後は、再び俳優としての顔を色濃く持つようになる。

そんなシュワちゃんが知事という肩書を下ろした後に初主演作品となったのが、2013年に公開された『ラストスタンド』というものだ。公開が決まり、日本でも劇場上映がいつかと告知された際の、彼のファンは阿鼻叫喚という喜びに包まれただろう。実際の地獄における阿鼻地獄はまさにあの世の果てでも特に恐ろしいと言われる冥府魔道だが、そこへ堕ちたとしても根性で這い上がって見たいという魂もいるかもしれない、それくらい大きな話題性を持っていました。

シュワちゃんの映画と言うと何かと強調されるのが『筋肉』ですが、そういうシーンは多くない。そのことを一部残念と感じる人もいれば、つまらないと喜びから一転して批判する側に回った人もいたほど。ただこの映画で演じるシュワちゃんは、『アーノルド・シュワルツェネッガーという人間の等身大』が見られる作品だ。本格復帰してから主演を果たしたラストスタンド、この作品がどのようなものなのか、まずは概要から話していこう。

ラストスタンド 概要

シュワちゃんが主演していた作品は後に話す、『ターミネーター3』以来なので実に13年ぶりとなる。かなりの時間が経過しており、この時には彼もまた日本では六珠が間近となる『65歳』と、もう立派なお爺ちゃんだ。あの筋肉ムキムキをやたらひけらかしていたと、少し言葉が悪いですけどそれだけインパクトが強かったあのシュワちゃんが、もう還暦を過ぎていると言われても正直実感がありません。見た目は全く変わっていないのに、身体は確実に老衰しているというのも何だか複雑な話だ。

ですがそんな年齢を感じさせない辺りが、役者さんのすごいところ。そして久方ぶりに映画主演を果たしたシュワちゃんの作品は、彼の魅力が100%に詰まった仕上がりとなっている。そんなラストスタンド、この物語のあらすじからまずは見ていこう。

ラストスタンドのあらすじ

ロス市警において敏腕刑事として活躍していたレイ・オーウェンズは第一線から身を引いた後、国境付近にある片田舎の小さな町で保安官をしながら静かに日々を過ごしていた。街の人達と話し、お位には勝てないと太り始めている体を気にするそんな他愛もない時間を満喫している。このまま平穏な時間が過ぎていくのかと思われていたが、中央の方で一つの事件が発生した。

とある麻薬密売組織のリーダーで、ラスベガスでは麻薬王とまで呼ばれたガブリエル・コルテスを逮捕・護送してたFBIの裏をかいた彼の部下が奪還作戦を試み、それを目の前で許してしまう。凶悪犯罪者は一路、アメリカを超えて国外逃亡を図ろうとし、道中にはFBI捜査官であるエレン・リチャーズを人質にとった。なんとか捕まえようと防衛戦をはるが、軍隊並みの兵力と火力の前では警察など飛び交う蝿も同然。立ちふさがる障害を蹂躙するコルテスたちが向かうは、レイが住まう街を通過する事が分かる。

この案件の責任者でもあったFBI捜査官のジョン・バニスターはレイに現在の状況を正確に説明し、応援が間に合わない旨も伝える。絵に描いたような平和で満たされた街に突如として降りかかろうとする嵐、そのことを知ったレイはこの街が最後の砦(ラストスタンド)として住民たちと協力して守ろうと動き出す。

まともな戦闘経験すら持たない部下を始め、銃器収集のマニアから集めた骨董品などを主力として出来合いの防衛舞台を結成する。何の変哲もないただの田舎だと侮っていたコルテス達、しかし彼らの前に立ちふさがったのはFBIとは比べ物にならない、タフでガイな1人の保安官が最大の障害となるのだった。繰り広げられる銃撃戦、果たしてレイは街を守り切れるのか。

ラストスタンド=最後の砦

この作品のタイトルにもなっているラストスタンドとは、その意は『最後の砦』だ。文字通り、窮地に追いつめられてもはや選択の余地すらない状況下にて、レイ率いる田舎で何不自由なく過ごしていた町民たちが、全米を震わす凶悪犯罪者たちと戦わなくてはならなくなる。ただで通しても街が無事で済む保証もなければ、自分たちの安全が約束されたわけでもない。FBIすら止められない傭兵部隊を率いる組織を何としても止めなくてはならない。

まさに最後の砦とふさわしく、かつシュワちゃんらしい過激で痛烈なアクション映画だ。

余談として

ちなみに、シュワちゃん演じるレイがかつて所属していたロス市警は、慢性的な人手不足というのも有名な話です。これには理由があって、20世紀序盤において腐敗という腐敗に汚染されていたロス市警が起こした『チェンジリング事件』が関係しているからだ。この事件をきっかけに、ロス市警は通常の採用基準を厳格かつ適性にするためハードルを上げざるを得ず、警察官は常に激務に追われているという。

ただその分だけ採用された警察官は将来有望な人間ばかりで、そんな背景も影響してシュワちゃん演じるレイ・オーウェンズの凄さに厚みを増していた。

年齢相応なシュワちゃん

冒頭は『本当にアクション映画か?』とという疑問を抱いた人もいるでしょう。なにせシュワちゃんの表情は表情筋が緩やかで、争いごととは無縁のどこにでもいる老体を演じているからだ。親近感をお覚える、とまではいかないにしてもそういう年なんだなと感じさせる一幕となっている。

見応えバッチリの映画

そんなラストスタンドの面白さは、後半になればなるほど盛り上がりを見せる。特に中盤以降の街中で繰り広げられる弾丸の雨が降り注ぐシーン、さらにはレイがコルテスを追い詰めるために繰り広げるカーチェイスに、最後の肉弾戦と往年の作品に引けをとらない仕上がりだ。それだけでも年齢を思えばよくやるなぁと思うが、そこはやはり往年のアクションスターの底力が垣間見える。

年を感じさせないで、という人もいる。どうして今回の作品で脱がないんだ!? と別視点で楽しみを求めていた人にすれば期待を裏切られたと感じるだろう。賛否両論、というよりは偏った偏見に満ち満ちているシュワちゃんの久々な映画だったが、日本では概ね好意見にあふれた作品だ。